CROW:
何があったかってより
何がなくなったかだな。
街中で木が倒れてる
DWINDLE:
あぁ、そうだな。
何か見逃したかな?
CROW:
見逃したってより見逃されたってトコかな?
見ろよ、この木。
CROW:
柵に当たってジイサンの
説明板もこわれちまったぜ。
CROW:
当たり前じゃないか、
説明板なんだから。
DWINDLE:
ワシは裏しか
見た事が無かったからな。
DWINDLE:
てっきりワシの名前が
書いてあるんだと思っておった。
そんなにいろいろ
書いてあるなんてな。
CROW:
説明板に?
「ドインドル:奇蹄目
バク科バク属ヤマバク」
CROW:
「奇蹄目バク科バク属ヤマバク」
奇数指の有蹄類、
ジイサンの学名だよ。
DWINDLE:
あ、 肢の指が何本かってのは
知ってたけどな
CROW:
ドインドル:
奇蹄目バク科バク属ヤマバク
CROW:
奇数指の有蹄類、
鼻は自由に動かすことができる
CROW:
ヤマバクと呼ばれコロンビア、
エクアドル、ペルーに分布
CROW:
ドインドル:
奇蹄目バク科バク属ヤマバク
奇数指の有蹄類、
鼻は自由に動かすことができる
CROW:
ヤマバクと呼ばれコロンビア、
エクアドル、ペルーに分布
乱獲による絶滅危機種
DWINDLE:
絶滅する、、、
バクはいなくなる、
この世から消えてしまう、
忘れられてしまう、
一巻の終わりだ
DWINDLE:
何にも残らない。
ワシの後には何にも。
バクのいない世界。
いったいどうなるんだ?
CROW:
生きてるうちに楽しむんだよ、
友達作ったり、愛しあったり、
空を飛んだり
CROW:
雨粒をよけながら飛んでみたり、
群れを作ったり、
DWINDLE:
ワシは飛べんし
柵からも出られんよ
DWINDLE:
どうせ何にも残りゃしない、そうだろ?
単に時がすぎていくだけなんだ。
残るものなんて何にもない
CROW:
オレは自分じゃ何にも残す必要なんてないね。
他の誰かがやってくれるだろうし。
カラスは「ゴマンと」いるからな。
CROW:
5万じゃない、 ゴマンとだ。
進化がうまくいったんだろうな、
一族郎党世界中どこにでもいるからな。
CROW:
あ、 南極は別。 あそこはペンギンのために
とっといたんだ
CROW:
オレたちゃ小説にも
大昔の神話にも出てるんだ。
カラスを使ったことわざだって、
ロゴだって、映画だってある。
カラスは文化の一員なんだ。
DWINDLE:
わかってるよ、
おまえのせいじゃないさ
DWINDLE:
ちょっと探し物をしてくれないか?
DWINDLE:
ちょっと調べてきてほしいんだ、
いろいろほじくりかえしてさ、
ワシらが何の役にたったのか
知りたいんだ
CROW:
わかったよ、 いろいろ当たってみるよ。
窓から覗いてみたり、
スマホをつついてみたりして、探してみるさ
CROW:
元気だせよ。
ジイサンはオンリーワンなんだぜ
DWINDLE:
最後の生き残りってのは
あんまりありがたくない
オンリーワンだけどな
CROW:
コロンビアには
いくつか言い伝えがあって
CROW:
そこでは誰も
バクの死に場所を知らないんで
幽霊バクって呼ばれてる
CROW:
いや、 わりぃ。
あんまり無いって言っただろ。
これで全部なんだ、全部。
わりいな。
CROW:
くまなくな。
オレ達は世界中の電線に
乗っかってるんだ、
いろんな所に出入りできるのさ
CROW:
サーチだってサイトだって
全部見れるんだ
CROW:
おっきな図書館なら
群れが常駐してるしな
CROW:
オレ達はテレビだって見るし
本だって読む。
アンデス山地にだって
行って聞いてきたんだぜ
CROW:
ラボだって研究施設だって
アクセスできるんだ。
ワイアー使って
鍵だって開けちゃうし。
ぶっちゃけ完全装備なのさ
CROW:
手に入らないものなんか無いんだ。
いろんな道具だって持ってるし。
CROW:
だから、、、
ホントにこれで全部だったんだよ
DWINDLE:
ホントか?
そんなことができるのか?
CROW:
もちろんさ。
敵がいる時は便利さ。
進化のためには優利、、
つか、なんか
用があったんじゃないのか?
DWINDLE:
なんか重要なことをするんだ。
バクよりもっと大きなこと。
どんな生物より大きいこと。
DWINDLE:
発見とか。
なにか意味のあること。
CROW:
わかった。
で、これといったアイデアはあるのか?
DWINDLE:
いろいろある知識を全部集めるんだ。
世界中の。
CROW:
そりゃ大変だぜ。
ジイさんには
憶えきれないんじゃないか?
CROW:
バクの脳みそは
梅干しと同じくらいの
大きさらしいぜ、
知ってたか?
DWINDLE:
そうだ!
知識を圧縮する機械を
おまえが作るんだ
DWINDLE:
純粋な本質になるまで
圧縮するんだ
DWINDLE:
そうじゃ!
わしは柵から出られないから
おまえが設計するんだ
DWINDLE:
おまえだったら
どこでも出入りできるし、
鍵だってあけられる、
いろんな道具ももってる、
DWINDLE:
でな、 ワシはその凝縮したもんから
真髄をとりだすんだ
DWINDLE:
まじりっけの無い形でな。
究極までやるんだ。
CROW:
で、 ジイさんのために
オレがそれをする?
DWINDLE:
ワシにはできないからな、
柵の中には何にもないし。
電源すらない。
おまえの助けがいるんだよ。
CROW:
ホントにやれるのか?
人間の科学者だってできてないんだ、
あいつらの脳みそはでっかいのにな
DWINDLE:
人間の脳みそは
でっかいかも知れないが
ワシみたいに集中できないんだよ
DWINDLE:
ホントだよ。
あいつらの頭の中には
ゴシップと食べ物と口紅しかない。
DWINDLE:
他人がどう思うかしか
考えてないんだ
DWINDLE:
ワシはそんなもんに惑わされん。
もっと急を要することがあるし、、、。
DWINDLE:
人間てのは
いつも誰か他のやつが
何とかするだろうって
考えてるんだ
DWINDLE:
最後のひとりになったら
ちょっとは集中できるように
なれるのかも知れんがな
DWINDLE:
死ぬことがモチベーションを
上げると思ってるなら、、、
CROW:
この世のありとあらゆる知識を
集めること?
DWINDLE:
おまえはひとりじゃなかろう?
言ってたじゃないか、
ゴマンといるってな
DWINDLE:
だから終活を手伝ってくれ。
バクはゴマンとはいないんだ
CROW:
うん。 どっから手をつけていいか
わかんないんだ
DWINDLE:
そうじゃな。
まずウィキペディアはどうだ。
なんでも載ってるんだろ?
ダウンロードするんだ。
DWINDLE:
で、 それを圧縮機にかける、
できるかぎり小さくなるまでな。
DWINDLE:
それをZIPして、ZIPして、
またZIPする。 で、それをA3からA4Rに
縮小プリントして、またスキャンする。
DWINDLE:
そうだ。
小さくなるまで圧縮して
プリントする。
3Dプリンターでな
DWINDLE:
そうやってウルトラ級に
圧縮された知識の塊ができる。
知識の本質だ。
DWINDLE:
なんとかできるさ。
やってみようや
CROW:
わかったよ、でも、、、、
ちょっと時間がかかると思うぜ
DWINDLE:
だったら善は急げだ。
ワシに残された時間は
どれだけあるかわからんからな
CROW:
知識だよ。
ウィキペディアを全部
ダウンロードして圧縮して
プリントしたやつさ
DWINDLE:
これは、、、
ボトルの蓋みたいに見えるな
CROW:
したとも。
ジイさんに言われた通りにな。
ウィキペディアから全部
DWINDLE:
うーん、期待してたのと違うな、、、
もうちょっと感動的なものを
期待してたんだがな
DWINDLE:
なんで知識の本質が
ちょっと変な形になったのかだ
DWINDLE:
そうだ。
あれは純正な知識じゃなかったんだ
DWINDLE:
違ってたんだ!
不完全だった、
欠けてたものがあったんだ
DWINDLE:
時代遅れのものだけど、
それだって知識にちがいない。
それも入れないと。
全部集めてくれ。
CROW:
うーん、わかったよ
それ全部読んで
圧縮機にかけろってんだな?
DWINDLE:
これはプラスチックの
スプーンの柄みたいに見えるな。
CROW:
ジイさん、
気に入らないんだったら、
止めてもいいんだぜ。
オレらはこれをやらなきゃいけない
わけじゃないんだ
DWINDLE:
わかってる、わかってるよ。
礼をいうよ。
でももう少し考えてみるよ
DWINDLE:
そうだ。
匂いの知識が足りないんだ
DWINDLE:
匂いはこの世の大切な要素なんだ。
だけどネットの世界には
匂いは無いし、
本だって本の匂いしかしないしな
DWINDLE:
そうだ!
それだって知識の一部だ。
モノの匂い。
できるか?
DWINDLE:
それ以外は
全部集めてきてくれたしな
DWINDLE:
匂いは集まったか?
もうかなりたつけどな。
CROW:
あぁ、そうだった。
でかい仕事だったぜ。
もう少しでできると思うよ、 うん。
DWINDLE:
みんな知っているけど
文書になってないヤツだ。
これもいる。
DWINDLE:
盗み聞きできるんだろう?
おまえなら集められる。
DWINDLE:
これは、、、よく見えんな、カラス。
年のせいかな。
DWINDLE:
真珠みたいな手触りだが。
どんな外見なんだ?
CROW:
王冠から取り出した真珠みたいだ。
そんな風に見える。
CROW:
そう言うと思ったよ。
今度は何なんだい?
DWINDLE:
へんてこな物ができたのは
これまで集めたモノに
真実じゃ無い物が
混じってたからだと思うんだ
DWINDLE:
そうだ。
真実じゃないものは
取り除かないといけない
CROW:
いいってことさ。
一家総出でまがい物を取り除くさ、
でまたプリントする。
CROW:
だけどオレたちゃ
全部見直して
ウソを取りのけたんだぜ、
言われた通りに
DWINDLE:
もうひとつだけ
足りないものがある
DWINDLE:
死だ。
死んだ後はどうなる?
これは知識に入ってなかった。
CROW:
あぁ
世界の果てまで飛んでいって世界の端っこから下を見てみるさ
CROW:
埋められたもの、
焼かれて風に飛ばされたものなんか
全部そこに流れ着くんだ